世界映画紀行 - World Express Vol.13

香港映画レポート(前編)

Movie Report from Hong Kong Part 1

文と写真:Kaori

Text & Photo by Kaori

(2002/09/02)

 


香港在住のKaoriさんの存在を知ったのは今年に入ってからのことです。以来、Kaoriさんが伝えてくれる奇想天外な香港映画事情の一端はいずれも興味深い話ばかり。これは僕が一人で伺っているのはもったいないと、改めてKaoriさんのレポートのかたちでまとめていただきました。


香港映画興業の実態

 「少林サッカー」が日本で大ヒットしましたね。この作品は香港では去年の夏公開され、記録に残る大ヒットとなったということをご存知の方も多いかもしれません。香港映画の成績がハリウッド映画を大きく上回ったのは、地元香港でさえ久々のことでした。しかし、今年の夏はまた、ハリウッド映画の独壇場といった感じで、たとえば、7月19日から25日の1週間の興行成績はこんな具合です。

 

題名

この1週間の収益

公開以来累積収益

1.

メン・イン・ブラックII

10,496,330

14,213,823

2.

我在左眼見到鬼

6,420,535

15,115,931

3.

マイノリティ・リポート

2,286,930

21,196,530

4.

Lilo and Stitch

2,218,795

7,156,945

5

スクーピードゥ

596,830

596,830

6.

K-19

419,210

419,210

7.

小孩不笨

380,405

3,914,640

8.

カンダハール

101,980

112,290

9.

香港有荷理活

97,335

328,911

10.

Long Time Dead

95,330

588,600

 香港映画は、ジョニー・トー監督、サミー・チェン主演のラブコメホラー(?見てないけど)「我在左眼見到鬼」とフルーツ・チャン監督の新作の「香港有荷理活」の2本のみ(「小孩不笨」はシンガポールの作品)。夏休み第一弾作品の中ではトム・クルーズの「マイノリティ・リポート」が一番ヒットといったところです。

 

 概して、最近の香港人は香港映画よりもハリウッド映画を好む傾向にあるようです。多くの人が最近の香港映画はつまらないと思っていること、それから、せっかくお金を払って見るのだから大がかりなものを見たい、とか、香港映画はダサイと思う、とかいった理由のようです。さらに、香港は日本よりもはっきりと階級がわかれていて、例えば、子供の頃に海外へ移民後(もしくは海外生まれ)、就職のために出戻ってきた香港人(OBCと呼ばれ、個別にアメリカ育ちならABC、イギリス育ちならBBC、カナダ育ちはCBCなどと呼ばれます。普段しゃべる言葉も広東語と英語がまざり、当然漢字も読めず、食べ物も中華よりウエスタンを好む傾向あり)は香港映画をバカにする傾向にあり、見る映画は外国映画。香港生まれ香港育ちのドメスティック派は、食べ物、生活習慣、どれをとってもかなり保守的で、映画に関しても外国映画は嫌いで香港映画の方が好き(字幕を読むのが面倒だという理由もあり)という傾向があります。なので、彼らが多く住む新界地区の映画館では香港映画を多く長く公開し、外国人やOBCが多く住む香港島のエリアでは、外国映画を重点的に公開するという特徴があります。さらに、どちらかというと自由になるお金を多く持っているOBC組が映画館に映画を見に行き、ドメスティック組はVCD(DVDより廉価なもので、アジアではこれが以前より多く出まわっている)を買ってすます、という状況も、香港映画の入りが悪くなった原因ではないかと思われます。では、香港ではどのような外国映画が公開されているのかといえば、これもわかりやすく、人気先行でハリウッド映画がダントツ。話題を呼ぶ大作ハリウッド映画はアメリカとほぼ同時公開(エピソードIIも香港では5月に公開、すでに終了)、もしくはアメリカに遅れること1〜2週間という感じで、日本より早く公開されます。しかし、ヨーロッパ映画やアメリカのインディ映画に関しては、日本より公開が遅いか、アートセンターが主催するイベントや、各国の文化団体や大使館が毎年催す映画イベントで見るか、毎年イースターの時期に行われる香港映画祭で見られるぐらいで、東京や大阪の比にはなりません。最も、日本では公開されないヨーロッパ映画がこちらで公開されたりするので、いったい何を基準にしているのか今一つ謎です。なんとなく、少しH系、またはゲイ関連の映画が多いような気がしますが、これらが香港人によりウケるからなのかは?です。

 

 香港は、東京都の半分の面積に700万人が住む地域。2000年の調査では63軒の映画館、合計178のスクリーンがあるそうです(日本と比べて多いのか少ないのかよくわかりませんが)。現在は、シネコンがほとんどで、アート館はたったの3館。映画の値段は統一されているわけではなく、映画館や平日か週末かによってまちまちで、平均するとだいたい50〜60香港ドル(1ドル現在約15円)。古い映画館は安く、通常40ドル、毎週火曜日の割引デーは30ドルとなるところが多く、物価の高い香港島になると、普段が60ドル、週末は70〜75ドル、火曜日が50ドルといったところです。平日の6時までなら40ドルとか初回を45ドルなど、映画館によってさまざまなサービスがあります(が、レディースデーというのはありません。割引は男女平等)。時間も、平日の最終回が夜の9時から10時半までの間で、週末はどの映画館もオールナイトかもしくは最終回が12時か1時といった具合になります。どの映画館も全席指定、3日前から購入可能(大作は別途1ヶ月ほど前より前売り開始)。ただし、前売りも当日も値段は同じ。席は各映画館のモニターで入り具合をチェックして、客が自分でどの席にするか選んで購入します。インターネットや電話でも席指定で購入できるので、日本よりもずっと便利です。

 

 映画を見ている最中、日本と違うことは、みんなケータイを切らない。「ケータイは切りましょう」と放送しても切らない。平気でしゃべり出すという傾向があります。かかってくるのはともかく、映画を見ながらかける人もいたりして不思議です。ちょっと前に、「どんな時にケータイを迷惑と感じるか?」というアンケート結果が新聞に載っていましたが、映画館と答えた人はたったの8%しかいなかったのに驚きました。映画館でケータイがなってもなんとも思わないのかしらん、香港人は?それから、映画が終わるとすぐに立って出ていきます。日本のようにタイトルエンドを延々と見ている人は、怪しがられます(笑)。おまけに劇場側もクレジットになった瞬間に電気を明るくしたり、掃除の人が入って来たりと追い出し作戦にかかるので、日本のように静かに正しく最後まで見たい!という人は香港で映画鑑賞をするにはむいてないかもしれません。しかし、人間は慣れの動物なので、私も初めはこれらの状況にムカついていたものの、今ではすっかり慣れてしまいなんとも思わなくなってしまい、たまに日本に帰って映画館に行くと、いつまでも延々とおもしろくもないエンドクレジットを黙って見ている日本人が不気味に思えたりします(笑)。

 

映画見るなら海賊版VCD?

 映画の観客動員数は全盛の80年代に比べると、なんと3分の1に落ちこんでいるそうですが、私からすると信じられない状況です。今でも週末になればどの映画館も満員みたいなのに、全盛期はいったいどういう状況だったんでしょう?観客激減に拍車をかけているのが海賊版VCDの存在といわれています。政府と映画業界は海賊版を抹殺するのに躍起になっており、去年から法律もでき、各映画館で映画が始まる前には必ず「映画をビデオで盗み撮りするのは法律違反です。罰金5000ドルか3ヶ月の懲役」という冗談のようなCMが流れますが、いっこうに海賊版は減りません。ある映画が公開されれば、公開初日の夜にはすでに、路上でその映画の海賊版VCDが発売されていて、しかも値段は10ドルほどなので映画館に行くより全然安いことになります。もちろん、盗み撮りですから、その品質はすさまじく、画面がよがんでいたり、盗み撮りしている人が退屈しているのか、ケータイで話し始め、その声が映画そのものの音より大きくて何も聞こえなかったり、盗み撮りしている人がゴソゴソ動く音が大きく聞こえたりしてます。もっとも、観客の笑い声も入っていますから、ある意味映画館で見ているような気がしないでもないというライブ感もありますが特に香港映画はVCDで見る、という人が私の周りには多いので、全体的にみなそうらしく、香港映画がハリウッド映画に動員数で負けてきている大きな理由といわれています。「少林サッカー」は、このような状況でもおもしろい映画を作れば、香港映画でもみな映画館にわざわざ見に来るのだ、ということを証明した作品でもあるのです。「少林サッカー」が去年から今年にかけて、賞レースでもどこでも大きな話題になったのは、その内容だけでなく、こういった映画業界への刺激・活性化を促すという役目も大きかったからだと私は思います。「少林サッカー」前の1年と後の1年では、明らかに活気が違いますし、ヒット作も増えてきているように感じます。

 

 一方、ハリウッド映画の海賊版VCDは「中華マフィアの人脈の広さ」に感心するほどで、話題を呼ぶ大作の場合、アメリカで公開された1週間後には中国語の字幕つきで香港(北京や上海も)の路上で海賊版が発売されています。中には香港で公開される前にすでに路上で海賊版が買えるものがあるほどです。これらの外国映画の海賊版の品質は上記の香港映画の状況に加えて、字幕がおそろしく間違っている、という特徴があります。どうやらコンピュータ翻訳しているらしいのですが、その間違いのすごさときたら、日本で誰々の字幕はおかしい、と話題になるどころの話ではありません。私は以前、北京で「シックスセンス」の海賊版(なんといっても大陸ではまた香港と事情が違い、ほとんどのハリウッド映画は海賊版でしか見られないのです)を買って見ましたが、母親がおばあちゃんの形見のネックレスが見えなくなったことをオスメント少年が持っていったのではないか、と疑い責めるシーンで、「ネックレスをどこにやったの?」というセリフが「お母さんは結婚したいの」という字幕になっていたりしました。ほかにもすごくたくさんこのような字幕があったので(でも忘れてしまった)、中国語字幕のみを追いかけてこの映画を見ていた友人は、さっぱり映画の内容が理解できなかったありさま。それから、人気作品のありもしないPart IIという幻の作品のVCD(最近はDVD。海賊版なら1枚10ドルほど)が発売されているのも笑えます。私が最近購入したのは、「アメリPart II」。中味は「Happenstance(原題:Le Battermet d’ailes du papillon)」というオードレイ・トゥトゥ主演の別の映画でした(笑)。

 

つづく


 my lazz life in Hong Kong

 http://home.netvigator.com/~kaorii/

香港在住ならではのホットな香港情報に触れられるKaoriさんのサイト。ただし、そこに登場するのは香港映画だけではありません。香港から世界を見渡すユニークな視点が魅力です。

 

 

 

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