私が子供だったころ

 When I Was a Little Child...

 


 

さよならストーンズ

Sayonara, Stones

  先日(2006年3月22日)、ローリング・ストーンズの日本公演初日に行って来ました。東京ドームです。

 実は僕はストーンズのコンサートを見に行くのは、これが5回目。最初は1990年の初来日、「スティール・ホイールズ」ツアーでのこと。次は「ブードゥー・ラウンジ」ツアーでサンフランシスコで見た時。このツアーで日本に来た時も、僕は足を運びました。そして「ブリッジ・トゥ・バビロン」ツアーでの来日時にもう1回。

 実はストーンズはこの後もう一度、2003年に「フォーティー・リッグス」ツアーで日本に来ているのですが、その時は女とのゴタゴタがあって見に行けずじまい。その時に「ストーンズのコンサートはこれがもう最後かも」…と言われていたので、僕はかなり無念な思いをした記憶があります。

 もっともストーンズのコンサートの「これが最後」という話は、今に始まった事ではありません。そう言われ始めてから2〜3度は日本に来ているのではないでしょうか(笑)。

 それでもメンバーの年齢が年齢だけに、「さすがにそろそろ打ち止めか」…とは思っていました。アルバム「フォーティー・リッグス」自体がストーンズ40年の歴史を締めくくるベストアルバムだけに、いよいよこれは終わりかという雰囲気になっていたのです。

 ところが晴天の霹靂。ニューアルバム「ビガー・バン」を引っさげてストーンズが帰って来ました。さすがに「今度こそ」オシマイかもしれません。だから日本公演の話が持ち上がった時、今度は僕も行こう…と「その気」になっていました。

 ところが…。

 今回の公演地は東京ドーム、さいたまスーパーアリーナ、札幌ドームにナゴヤドームという案配。僕が行けるのはそのうち東京ドームですが、3月22日と23日という公演日は平日ではありませんか。正直言ってストーンズ見るために仕事を休むのはキツイ。これが初めてストーンズを見る機会だというならまだしも、すでに4回も見ているだけにわざわざ休むのはなぁ…。

 おまけに今回のチケット代がバカ高。何とS席で17500円もするのです。こりゃあいくら何でもボッタクリすぎでしょう。一体何でこんな事になったのでしょうか?

 どうも今回の公演、今までストーンズの来日を仕切っていた大手招聘元のウドーではなく、何やら聞いた事のない会社が手がけているようなのです。それでかどうか分かりませんが、どうもイマイチ盛り上がっていない。この法外な値段のチケットも気に入らないし、東京ドーム公演が平日なのも使用料が安いからでしょう。何だか仕切りが慣れてないやらセコいやらで、うまくいかなそうな気がする。そもそも平日休んでこの値段というのが気に入らない。こんな知らない招聘元で大丈夫なのか? 途中で頓挫しかねないんじゃないか?

 考えてみれば、僕はもうストーンズを4回も見ているんです。もっとつきつめて考えれば、ビル・ワイマンが在籍していた原型に近い状態のストーンズも「スティール・ホイールズ」で経験済み。その後はストーンズの余生と言ってもいい。ここんところのアルバムも新曲も、こう言っちゃ何だがつまらない。ニューアルバム「ビガー・バン」も一回聞いたらどこかに放ってしまった。やっぱり今回見に行かなくてもいいかなぁ…。

 そんな調子で、今回は半分以上投げていたのが本音でした。

 ところが、ライブ一週間前に職場で女の子と話しているうち、たまたまストーンズの話になった。聞けばまだチケットが大幅に売れ残っているというではないですか。そりゃないぜ。ストーンズがかわいそう(笑)という気持ちと、話しているうちに刺激を受けたのが半々で、何となく今の段階でも行けるなら行こうかという気になってきた。試しにチケットぴあに行ってみると、楽勝でチケットが手に入った。場所も一週間前に買えたにしては悪くない。一塁側の一階席です。ウワサは本当だったのか…。

 こうなると、軽く楽しむ気持ちで出かけてみるか…と、たまっていた代休消化を充てる事にしたわけです。

 さて当日。午後5時開場のところを5時半に後楽園到着。結構人が来ている。見るとグッズ販売の売店に人だかり。さては、ここでしか買えないのか…と早速列に並ぶことにしました。ところがこれが全く先に進まない。そのうち雨がポツポツ降り出してくる。仕切りがまずくて列をつくらせないものだから、みんなが殺到して団子状態。しかも買い終わって出てくる人も出て来れないという最悪のパターン。僕は1時間も並んでいながら、目の前に売店が見えていても全く進めないというアリサマにグッズ購入を諦めてしまいました。気づいてみればもう公演開始時間が目の前の午後6時40分。慌ててドームに入ると、中でもグッズを売っているではないですか。こちらも黒山の人だかりでしたが、これをもっと早く教えて欲しかったです

 ただ、7時開演と書いてあっても、7時にストーンズが出てくる訳がない。それにもう5回目となるとこちらも緊張感もゼロ。結局飲み物買ったりトイレ行ったりとウロチョロ。7時きっかりにギターの音が聞こえて来ましたが、当然のことながらストーンズではなく前座でした。こっちは余裕で売店でグッズを買う始末です。もっともこの時点ではTシャツなどはなくなって、僕が買ったのはスポーツタオル。ま、何でもいいや。

 前座は7時半に終了し、またザワザワ。場内も明るくなってしまいました。何だか始まりそうな気配もない。改めて回りを見渡すと、やはり…と言うべきか空席があちこちに目立つのでした

 僕の席は…というと、確かに場所的には悪くないのですが、視野に巨大なスピーカー類を取り付けた鉄塔が入ってくる。ちょっとステージ右側のキースは見えにくいかな…という場所でした。まぁ、一週間前に買ったチケットですから文句は言えません。

 ところがしばらくすると、僕の前の席の人たちがゾロゾロ立ち上がって移動を始めたのです。何でも前の空席に座っていい…と係員から言われたとか。じゃあオレも動いていいのか?…と手近の係員のアンちゃんに聞いてみましたが、彼は「そんな事何も聞いてない」と当惑顔です。それでは仕方ない。勝手に動いてみると、ちょうどいい案配でベストポジションの席をゲットできたではありませんか。今日はなかなかツイてる。

 この時点になってみるとガラガラではなく8割ぐらいの入りになっていましたが、チケットの売り方が悪かったのか、なぜか前の方がガバッと空いている。そこでどんどん後ろから詰める事になったわけです。

 そんなこんなで、結局再び場内が暗くなってストーンズが登場したのは、午後も8時を回った頃のことでした。いきなり始まったのが「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」、続いて「夜をぶっ飛ばせ」…と定番を次々披露してくれます。

 ただ…何だかイマイチ場内が熱くならない。ノリ切れないというんでしょうか、僕が今まで見に行ったストーンズ公演よりは、確実にテンションが下がっている。まぁ、今までが高すぎたと言えばその通りで、通常のロック・コンサートはこんなものでしょうが、これは他ならぬストーンズのコンサートですからねぇ。

 ふと気づくと、何となく選曲が地味なんですね。そもそもアルバム「山羊の頭のスープ」に収録された「スウェイ」なんて曲は、今までライブで演奏された事ないんじゃないでしょうか? 割とシブい選曲で、演奏も派手さがない。よくよく考えてみると以前のストーンズのコンサートでは、ストーンズのメンバーの周りをコーラス隊が取り巻き、チャック・リーベルのキーボードもガンガン入って、ボビー・キーズ率いるブラス隊もにぎやかに鳴らしていました。今回もそのメンバーはほとんど変わりないのですが、なぜかコーラス隊もブラス隊も極めて控えめにしか出てこない。ブラスなんてほとんど出番がなかったんじゃないでしょうか。大半はストーンズのメンバー中心のタイトなバンド・サウンドで構成されているのです。

 このあたり、ちょっとロック・スペクタクル・ショーの様相を呈してきた昨今のストーンズ・コンサートを反省したのでしょうか。たぶんバンド中心で展開するコンサートは1970〜80年代以来久々だと思われるのですが、ストーンズはここで改めて原点に戻ろうとしているようです。

 確かに今回もセットは巨大で派手派手(何と舞台の左右に巨大な3階建てのビルみたいな建物を建てて、そこにお客まで入れていました!)ですが、演奏そのものはシンプル。昔のヒット曲を演奏しても、アレンジはオリジナルにかなり戻した演奏をしています。例えば「一人ぼっちの世界」は1970年代の「ラブ・ユー・ライブ」でも演奏していましたが、その時のアップテンポなアレンジとは違ってオリジナル・アレンジに忠実。「ミス・ユー」も以前はミックがダラダラと続けるアドリブが長かったのですが、これも全くなかった。そういう「自己満足」と思えるアドリブは、今回極力排除されているのが特徴です。だから1曲1曲が極めて短い。そんなこんなで、以前のようにヒューズが飛ぶような興奮状態にはならない。そこで僕もまったりとストーンズを聞いているような、余裕たっぷりなコンサートとなりました。まぁ、こういうのも悪くないか。

 そしてダラダラ展開がないから、中盤のハイライト、キース・リチャーズのコーナーがすぐに来てしまう。ミックの体力の衰え(?)と共に恒例化したこのキース・コーナーですが、サンフランシスコではこれが完全な休憩時間と化してましたっけ。みんな売店にグッズを買いに行ったり飲み物を買いに行ったり、あるいはトイレに行ったり…。ところがここ日本では、キース・コーナーはこれはこれで大きな盛り上がりどころ。それをキースも覚えているから、「東京に戻って来たゼ!」みたいに歓呼に応えてニヤリ。この場面は見ていて微笑ましくなりました。1曲目は曲名忘れましたが(笑)、キースならではの風呂場でうなってるようなユルいバラード。そして2曲目が彼唯一のヒット曲「ハッピー」。これがまたまた盛り上がった。ハッキリ言ってキースは「ベイベ〜ベイベ〜ベイベ〜ベイベ〜」しか言ってない(笑)んですけど、キースはそれでいいんです(笑)

 ただねぇ、やっぱりイマイチ盛り上がりに欠ける気がする。その原因はいろいろあるでしょう。東京ドームは元々音響効果が最悪の会場ですが、それにしたって今回はひどすぎた。PAとかミキシングとか最悪だったのではないでしょうか。聞こえなきゃならないものが聞こえず、聞こえなくてもいいものが聞こえていたような音のバランスの悪さが目立ちました。ちょっと音が悪すぎ。

 それより何より、ストーンズ自身の調子も今ひとつ良くない。ミックは相変わらず頑張っていたのですが、ロン・ウッドのギターがかなりハズしていた。キースもキレが良くなかった。チャック・リーベルのキーボードも、アレは明らかにミス・コードを弾いていたんじゃないでしょうか。それより何より、バンドのリズムが合っていなかった。やたら演奏がハシリ気味だったのも一度や二度ではありませんでした。元々ストーンズは緻密な演奏やうまさで売っているバンドではありませんでしたが、全体はラフでも曲のキメどころでビシッとキメていた。そこがカッコイイと言われるゆえんだったわけです。ところが今回はどうも曲のキメどころもいささかキメ損なってる感じ。これが何ともツライ。要は、まだまだエンジンが暖まってない感じなんですね。で、それを言ったら聞いてる僕らの方もまだ暖まってない気がする。

 考えてみるとあのストーンズ・コンサートのロック・スペクタクル・ショー化というのは、徐々に衰えてきた彼らのパワーを埋め合わせるための、ひとつの方策だったような気がします。元々は彼らだけでやっていた演奏にコーラス隊を加えブラス隊を加え、派手な趣向も凝らしてボリュームを維持する。だが、それゆえに今度は巨大になりすぎて観客との距離感が開きすぎた。「ブリッジ・トゥ・バビロン」ツアーあたりからアンプラグド・アルバム「ストリップド」のイメージで、ストーンズの乗った小型舞台が客席中央あたりまでせり出す趣向を始めたのも、おそらくはそんな理由からなのでしょう。彼らはあのやり方で巨大コンサートでも観客と身近に接して、ライブハウス的感覚を持たせたいと考えたはずです。

 今回もストーンズを載せた舞台が客席の中央へと移動して来るのは以前同様。だが今回は、何とほとんどネット裏あたりまでせり出してきたから驚きました。たまたま前に席を移動できた幸運もあって、ミックやキースの顔を肉眼で見えるほどの至近距離に位置する事になったわけです。これにはさすがに興奮した!

 さすがにこのアトラクションあたりからは観客もエキサイト。一応の最終ナンバー「ブラウン・シュガー」では場内興奮のるつぼと化してしまうあたり、やっぱり腐ってもストーンズ。ここまで持っていってしまうとは、やはりストーンズは昨日今日始まったバンドではありません。ただ必死に律儀に盛り上げるミック・ジャガーを見ていると、ちょっと同情を覚えてしまった事も否定できないのです。

 PAやミキサーがまずかったという事はあったでしょう。そもそも東京ドームの音響も最悪でしょう。招聘元の段取りもうまくいかなかったのかもしれません。しかし結局タイトなバンド・サウンドに戻りたいというストーンズの発想に、今回は無理があったのかもしれません。志は大変良かったのですが、もはやストーンズにそのキャパがなかったのかもしれない。いや、決して無理ではないのでしょうが、ちょっとコンディションが悪くなると余裕がなくなってしまう。だからリカバリーに時間がかかってしまうのかもしれません。

 考えてみれば…ストーンズを聞き始めたのは中学〜高校の頃ですから、僕らでもかれこれ30年以上になります。そして僕らの世代が聞き始めた時点で、もう十年選手でした。

 だからストーンズも観客の僕らも、もういいかげんエンジンが暖まるのに時間がかかるはずです。それはそれで仕方がない事なのです。今回も巨大セットをステージに建造しながら…以前なら舞台を縦横無尽にミックとキースが動き回ったのに、僕が見た限りではほとんど動かなかった。あれだけのセットをほとんど活かす事なく終わってしまったのです。今日はノらなかったのか、それとも今日“も”ノらなかったのか。例えそうであっても、それも無理がないような気がします。

 アンコールが終わって恒例のメンバー全員での「お辞儀」が行われている時、僕はこれがストーンズの見納めだろうと痛感しました。おそらく僕がストーンズを見ることはもうないでしょう。まだやっていたとしても、それはあのストーンズではない。今までずっと僕らを挑発し続けて来たストーンズに同情を覚えるようになったら、ロックンロール・サーカスは終わりなのです。今度という今度こそ、「これが最後」

 ありがとう、ありがとうストーンズ。さようなら。

 

 

 

 

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