私が子供だったころ

 When I Was a Little Child...

 


 

クイズ・タイムショック

Quiz Time-shock

 

 ついこの前のこと…と思ってるんですが、最近の自分の記憶というのはどうも頼りない。もう1〜2年前にもなりますか。ともかく、僕はとある地下鉄駅の広告で「クイズ・タイムショック」が復活すると知ったんです。それもタイトルの後に「21」と付く、21世紀バージョンとしてのお目見え。

 じゃあ、懐かしがってその番組を心待ちにして見たかというと、全然そんな事はなかったんですね。そもそもその時点で見たいという気が起きなかった。なぜか?

 なぜなら、「タイムショック」と来れば、司会が田宮二郎じゃなきゃダメだったから。

 何しろあのクイズは心臓に悪かった。1分間に12問の問題がタテ続けに出題され、全問正解出来たら100万円。これは当時のテレビ・クイズ番組としては破格のものでした。でも、とてもじゃないけど全問なんか正解出来ない。問題自体は大して難しい訳ではありませんが、それをとっさに答えるのが難しいんですよ。

 そんなクイズの司会を務めるのが、ダンディな田宮二郎でした。

 田宮二郎は、番組冒頭にいきなり素晴らしい発音の英語を交えながら宣言します。「Time Is Money。現代は時間との戦いです」…確かこんな事を言っていたはず。そして番組の進行中も常にクールそのもの。普通はこの手の番組では、司会者は客を煽ろうとヒート・アップするのが定石。でも田宮は違います。あくまでクール。それが、例の1分間に12問、全問正解100万円…という当時では破格のクイズであることと相まって、この番組をスリリングなものにしていたんですね。

 僕は子供だったから、この突然現れた田宮二郎なる人物を誰だか知らなかったんです。ただ、いきなり出てきたのに妙にカッコいい。大物然とした態度。そこに興味を抱いたんですね。

 その田宮二郎が元は映画スターだったと知ったのは、それから間もなくの事でした。

 田宮二郎…彼は大映の専属スターでした。それならば、当時小学生だった僕が知るわけもありません。映画なんてほとんど見ないし、まして大映なんて……。大映映画を見ている小学生なんて、「ガメラ」シリーズや「大魔神」を見る子供しかいませんでした。僕は怪獣映画って見なかったし、第一そんな作品にはそもそも田宮二郎が出るわけもありません。

 そんな田宮二郎は、スターとしてのビリングの問題で揉めて、会社をクビになったのだと聞いています。ビリングとは、スター同士の序列の事。ハリウッドなどではよく聞く話ですが、この「なあなあ」の日本で会社をクビになるまで揉めた田宮という男、やっぱりただ者ではないなぁと僕は子供心に思ったんですね。

 だって「クイズ・タイムショック」の司会ぶりからして、キレ者のイメージがありますからね。すごくクール。だからきっと、欧米並みの合理主義でモノを考えているんだろう。とてもじゃないけど永田雅一のどんぶり勘定いいかげん経営の大映とは意見が合うはずがない。やっぱり「タイムショック」のクールな田宮は本物だ…と思ったわけです。

 その後、ドラマにも出演してはそのクールぶりで評判をとった田宮。一番印象深いのは「白い滑走路」の彼でした。旅客機の機長を演じて、これまた何ともカッコいい。英語がまたキマってる。それはまさしく田宮ならではのカッコよさでした。

 そのうちイギリス映画出演の話も決まったとかで、その主演作「イエロー・ドッグ」も日本で公開になりました。僕は見なかったけど、日本人スパイをまたまたクールに演じていたんでしょう。英語にも堪能な田宮のこと、きっとまたカッコいいに決まってます。さすがだなと僕はクールな田宮には一目置き続けていました。

 そんな1978年12月、田宮二郎は自殺しました

 何と猟銃で自分の胸を撃ち抜いたとのこと。自殺の仕方まで日本人離れしているじゃないか。不謹慎な話ですが、僕は田宮のそんなところにまで感心しちゃったんですよね。

 ところがその後伝え聞いた話では、実際はそんなカッコいい田宮とは大分違っていたらしいんですね。

 自殺の動機については諸説ふんぷんありますが、中でも有力なのは何やら怪しげな「M資金」なる詐欺に田宮が引っかかったというもの。これで多額の負債を抱え込んでしまったと言うのです。

 実は田宮、金に限らず何かといろいろ無理に無理を重ねていたようなんですよ。

 例のイギリス映画「イエロー・ドッグ」も、裏ではいろいろあったようだし。何しろこの映画、田宮もかなり出資していたらしいんです。彼はイギリスに招かれて起用された訳ではなかったのか。結局は、資金提供も含めての抜擢だったのか。そういえば、僕も当時「イエロー・ドッグ」の監督のテレンス・ドノヴァンなる人物、聞いたことないなぁと思ってはいたんです。この映画がイギリスで当たったかどうかは知りません。でも、松竹によって日本公開された際には大コケしたと聞いています。出資した田宮も、その金を回収することは出来なかったでしょう。そんなこんなで無理を重ねて、妙な詐欺にまで引っかかったのでしょうか。

 そもそも大映をクビになった直後の彼は、決してカッコいい状態ではなかったようです。当時の五社協定だか何かに邪魔されて、田宮の仕事の場はなくなってしまいました。それで地方ドサ回りをやらざるを得ない。それは、このクールな男にはさぞや苦痛だったことでしょう。「タイムショック」の仕事にありついて、テレビに活路を見いだした彼。それからは主演作も続いてまた華やかな世界に戻ったのに、彼の屈辱はそんな事ぐらいでは癒されなかったのかもしれません。そう考えると、自腹切ってまで国際スターの夢を追った気持ちも分からないでもない。そして、その無理がたたって金が必要になる。それがまた裏目に出て詐欺にあう…。その頃には、田宮はかなり強度の鬱病に襲われていたと言います。

 亡くなった時、まだ彼は43歳の若さでした。

 実は今回ここで田宮二郎を取り上げたのは、「神に選ばれし無敵の男」の感想文を書くために、ちょっと調べものをしたからです。元々僕は、田宮という人とその自殺について、ちょっと関心を持ってはいました。でも今回彼のことをいろいろ調べていて、僕は思わずギョッとしたんです。それって、ちょうど今の僕の年齢だったんですよね。あの頃は僕はずっと年上の人の話と思っていたけど、いつの間にか自分は田宮の死んだ時と同じ年齢になっていた。しかも驚いた事に、田宮二郎がこの芸名に改名したのは1959年。何と僕が生まれた年のことだったんですよね。この田宮二郎の名前になってから、彼はスターとしての運が開けた。この偶然には本当に驚きました。

 そして、そんな僕に次の誕生日がまもなくやって来る…。

 最後の日々、田宮の胸の中にはどんな思いが渦巻いていたのでしょう。クールに見えていたけど、その内面は虚勢を張り続けてボロボロだったという彼。そんな彼の気持ちを、人生半ばを越えて疲れ果てている僕は、今こそぜひ知りたいと思います。

 チッチッチッチッチッ…。

 「クイズ・タイムショック」では緊迫感溢れるBGMとは別に、この時計の秒針が時を刻むSEが終始聞こえています。この音が回答者を心理的に圧迫し、どんどん追いつめていく。そのサスペンスの中で、回答者はだんだん冷静な判断が出来なくなっていく

 チッチッチッチッチッ…。

 最後の日々を過ごす田宮二郎の脳裏にも、この秒針の音は聞こえていたんでしょうか?

 今、僕は44歳の誕生日へのカウントダウンが聞こえています。亡くなった田宮より、一歳年上になる日へのカウントダウンが…。

 

 

 

 

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