私が子供だったころ

 When I Was a Little Child...

 


 

マッチボックス

Matchbox

 

 みなさんは「マッチボックス」のミニカーってご存じですか?

 英国製で大きさは携帯電話よりちょっと胴が短めくらい。小学生の時、僕はこれにえらく熱中していたんですね。当時150円と値段も手頃だったので、集めるのは楽とは言えなかったけどそんなに手が届かない訳じゃなかったんですよ。これが小さいくせに質感があって、ちょっとリッチな気分が味わえた。ちゃんとカタログも毎年あって、そこには常時70台近くのラインナップが載っていたんです。これをオモチャ屋さんでもらって、次に何を買おうかと眺めているのがまた楽しい。ワーゲン、ロールスからロータス、フィアット、ムスタングと世界の名車がズラリ。しかも車の種類も豊富で、スポーツカー・タイプありパトロールカーあり、トラック、バイク、はてはトラクターのような特殊車両もあった。石油運搬トラックなんか、ちゃんと英国石油の「BP」ロゴ入りで泣かせるんですよね。

 後に日本のトミーがマネして、トミカ・シリーズって非常によく似たミニカーを出し始めたんですが、やはり質感とバラエティの点でマッチボックスには遠く及ばなかったんです。

 そのうち僕はいろいろなオモチャ屋さんに出入りして、このマッチボックス・シリーズの過去のカタログを手に入れるようになった。すると、すでに生産中止になってラインナップからはずれたものにマニアックなものが一杯あるんです。例えば牛乳販売車とか(笑)。これらのヴィンテージ・カーが、またマニア心をくすぐるんですね。それを必死に探して丹念にお店を回ると、倉庫の片隅に売れ残りが眠っていたりする。これを手に入れるのが、何とも言えない楽しさだったんですね。

 どうしてこんな事を思い出したかと言うと、昨年「60セカンズ」って映画が公開されましたよね。これって車泥棒が一晩で100台の名車を盗む話なんですけど、見ていて「この感じ、何かに似ているな」って思ったんですよ。それって何だろうとずっと考えていくと、どうも昔この僕がマッチボックスのミニカーを必死に集めていた頃の気分に似ているんですよね。僕がカー・マニアでもないのになぜあの映画が気に入ったかと言うと、たぶんあの「集める」楽しさを思い出させるからなんでしょう。逆にカー・マニアから見ると、あの映画は車をじっくり見せてはくれないからイマイチらしいんですが。

 そんな僕がいつしかマッチボックスのミニカー集めからキッパリ足を洗って、持っていた100台近い車を全部惜しげもなく従兄弟にあげてしまったわけも、そのへんが理由なんでしょう。集めるのが楽しいんであって、心底車が好きな訳じゃなかったんですよ。

 月日は流れて、今、僕は映画を何本も見ては感想を書いては、このサイトに載せています。そんな僕が最近気づいたのは、実は映画を見るのがあんまり楽しくないってことなんです。昔は映画が好きで、見る日を指折り数えて待っていた。見た後もずっとそれを思い出しては楽しんでいたのに、今はあんまり楽しくない。ふと考えてみると、僕は「この映画は見ておかなくては」とか「これは押さえておかないと」という気持ちで半ばノルマ的に映画を見ていて、少しも楽しんでいないみたいなんですよ。土日に何本も見て予定はそれで埋まって、感想書いてヘトヘト。これじゃあ楽しい訳がないですよね。

 おそらく僕の中で、映画がマッチボックスのミニカーみたいになってきているんじゃないか? そんな気がしてきたら、見るのも程々だよなって気がしてきたんですよね。

 指折り数えて待ったワクワクする気分を取り戻すまで、映画に飢えているってのもいいかもしれないですよね。「60セカンズ」を改めてDVDで見ながら、ふとそんな事を思ってみた日曜日の午後でした。

 

 

 

 

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