私が子供だったころ

 When I Was a Little Child...

 


 

岩波の子供の本

Iwanami Books for Children

 

 岩波書店って聞くと、映画ファンにとってはいまいましいミニシアター、岩波ホールで有名ですよね。いや、いい映画やってるとは思いますよ。思うけども、やっぱりどこかイヤミな感じがする映画館なんですよね(笑)。それは、いつも自分たちが今時の「乱れた映画」ではなくて本来の意味での「いい映画」を上映しているんだ…という自負が必要以上にチラつくからなんでしょうね。でもねぇ、本来の意味では「スター・ウォーズ」とかが映画の王道なんですよね。決して岩波ホールでかかる発展途上国の映画なんかじゃない。インテリさんたちは違うかもしれないけどね(笑)。

 同時に本業の本屋さんとしての岩波書店も、どこかお硬い感じが売り物。ちょっと退いてしまいそうなところなんだが、事これが子供の本となると岩波の独壇場なんですね。

 なぜかここの出す子供の本は、どれもこれもセンスがいい。決定版、極め付けといった感じなんですよ。

 考えてみると僕もこの岩波書店とは付き合いが長い。最初はいつ頃だろうかと遡ってみると、小学校低学年の頃まで辿らなければならないんですね。前にもどこかでお話したように僕は未熟児で生まれて抵抗力がほとんどなかったため、幼少の頃は病気という病気にかかりっぱなし。幼稚園にもほとんど行けず友達もいなかったので、本だけが心の友といった状態だったんです。

 だから、本屋にはしょっちゅう通っていたし店員さんとも親しかった。そんなある日、店員さんが「これを読んでみたら?」と教えてくれたのが、「ナルニア国ものがたり」シリーズの第1巻め「ライオンと魔女」だったんですね。

 この「ナルニア国ものがたり」全7巻のシリーズは、今でこそ有名ですが当時はどうだったんでしょうね。世界的なベストセラーで、今で言うと流行の「ハリー・ポッター」なんかメじゃないくらい知名度も抜群。作者のC.S.ルイスをあのアンソニー・ホプキンスが演じた「永遠の愛に生きて」なんて映画まで出来ちゃうくらいですから、今じゃあ大変なものです。いずれにせよ、当時まだ小学生の僕には分かるわけもありませんでしたけどね。

 ただ、その本を手にした時の不思議な気分は今でも忘れないんですよ。この本は今まで自分が見た本とは全然違うものを持っている。子供心ながら、僕はその時に直感したんですよね。それは、表紙などに印刷されていた、ポーリン・ベインズの手になるユニークなイラストのせいだったかもしれない。このイラストが、「ナルニア」の魅力の大きな要素の一つであることは言うまでもありませんからね。

 そして本を買ってもらってから、家に帰って一気に読んだ! とにかく素晴しかったですね。ファンタジーなのに妙に実感がある。一冊の本のなかで、僕は確実に旅をしたんです。これは他のいろいろな本とは確実に一線を画してると分かった。それからというもの、続刊が楽しみで楽しみで、出るとすぐに読んだ。また次を待った。だから、7刊めで終わってしまった時の寂しさと言ったら…もっとずっと続いて欲しかったですね。

 さて、その次に本屋の店員さんが薦めてくれたのは、もうちょっと年齢上の子を対象にしたアーサー・ランサム全集全12巻。これはイギリスの湖沼地域を舞台に、帆船遊びをしながら育っていく子供たちの姿をリアルに描いた作品集。基本的にはピーター、スーザン、ティティ、ロジャーの4人兄弟のツバメ号クルー、女海賊を自称するナンシー、ペギーのアマゾン号姉妹を中心に、後にはドロシアとディックの姉弟も登場しての冒険談。子供の本ではあるんだけど、どこか辛口で夏休みのバカンスの実感がある作品でした。このアーサー・ランサムの作品群に出てくる実在の場所には、一度実際に訪れてみたいものだと今でも思っています。

 その後はもう本屋の店員さんの言を待たずに、ヒュー・ロフティングの「ドリトル先生」シリーズ全12巻や、「エーミールと少年たち」に代表されるエーリヒ・ケストナー全集全7巻などを読みあさりました。実はこのエッセーのタイトル「私が子供だったころ」っていうのは、ケストナーの自伝のタイトルでもあったわけ。要はパクりなんです。

 他にも全4巻の「床下の小人たち」シリーズとか、何冊あったか忘れたけど、ネズミのミス・ビアンカとバーナードの冒険を描いたミス・ビアンカ・シリーズなど、本当に岩波書店の子供の本っていうのは面白い本の宝庫だったんですよ。そして病弱で家に籠りがちだったので友達もあまりいなかった僕は、これらの本の世界の中でさまざまな旅をして経験を重ね、モノの善悪を学んでいったんじゃないかと思うんですよね。

 後で考えて見るとこれらがすべて(ケストナーを除いて)イギリスの子供向け冒険小説やファンタジーだったというのも興味深いですね。自分が手に取って面白いと思う本が、どれもこれもことごとくイギリスの本だったというのは、やっぱり相性っていうものだったんでしょうか?

 そんな事をしているうち僕はいつの間にか中学生になり、岩波の子供の本との蜜月時代も終わってしまいました。でも、あの時代こそが僕の読書歴でも至福の時であったということは、その後30年経った今でも決して信じて疑わないのです。

 

 

 

 

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