私が子供だったころ

 When I Was a Little Child...

 


 

駅弁

Ekiben

 

 実は私の親父は旧・日本食堂に勤めていたんですよ。え? 日本食堂って何だかわからない? 今はJRっていうけど、旧・国鉄の列車内の食堂車を経営していたのがこの日本食堂なる会社…といえば、みなさんハハァ…と思い当たるフシもあるはず。今じゃあヘンテコなCIばやりの悪影響で、確か日本レストランエンタプライズなる何だか訳のわからない名前になってしまった。略してJRE。何だか競馬か何かの団体みたいだよね。

 で、この日本食堂のもうひとつの主力業務っていうのが、他ならぬ駅弁なんですよ。

 今どきのみなさんは舌も肥えちゃってて、駅弁なんてマズいと見向きもしないんでしょうが、私はあれが大好き(笑)。列車でもちょっと長い道中になると、喜々として弁当買いに行くんですよね。

 子供の頃は、毎年夏と春の休みに、母方の親戚がいる栃木県の田舎に遊びに行っていたので、そのたびに駅弁のお世話になっていました。いやぁ、あれはうまかったなぁ。

 いや、自分も駅弁ファンだ…とおっしゃるアナタ。ひょっとしてあなたのお好きな「駅弁」とやらは、ご当地弁当で高価そうな珍味が入っていたり、器が変っていたりの「峠の釜めし」状態の変わりダネ駅弁じゃないですか? それは違うんだなぁ。

 私が大好きなのはそうじゃなくって、いわゆる幕の内弁当と言われる何でも入っているやつ。ゴハンの真ん中にウメボシ入っててね。タマゴヤキとか入ってる、あの典型的なやつ。あれが駅弁の醍醐味なわけですよ。

 だいたい、みなさんは「峠の釜めし」って食っててうまいと思ったことあります? 私は一度だって、あんなのうまいと思ったことないなぁ。あれって器だけでしょう。何だか構えが大げさだとありがたい気がしちゃうんですよね。でも、あんなのうまくないですよ。

 最近ではテレビでも駅弁特集とかやってて、売れなくなった落ち目タレントなんかが、電車に乗せられて一日に何食も変わりダネ駅弁食わされてたりしてますよね。中には固形燃料で熱するやつ、特製ソースをつけるやつ…いろいろ。素材もおソバから松坂牛から何でもある。でも、そんなの弁当になってても本当はおいしくないよね。つくってる奴はゴキゲンなんだろうけど、本来は揺れる電車の中であわただしく食べるもので、いろいろな制限やハンディのある中で調理された弁当は、そんな「こだわり」料理化したらイヤミなだけ。松坂牛はやっぱりゆったりとお店で食べたいですよ。つくってる側はそれがわかってない。ああいう「高級」駅弁やら「珍味」駅弁なんていうのは、昔のアメリカB級SF映画に出てくる放射能で巨大化したクモとかカマキリとかの怪獣と同じで、実はすごくいびつで歪んだ存在だと思うんですよね。

 結局、一時期のアホな「グルメ」ブームがあんなバカな駅弁を大量に生みだしちゃったんでしょうね。そもそも我々を含めて今の日本に一体何人グルメと言える人っているんでしょう。そんなの自分だけがうまいと思えればいいじゃないですか。そもそも我はグルメなりなんて言う奴はヤボてんですよ。粋じゃない。じゃあ、粋じゃないグルメって何だ(笑)?

 駅弁は出発前の駅で買ってもいいけど、車内販売で買ったり、途中の停車駅で駅弁売りの人からあわただしく買うのもいいですね。お茶とかも一緒に。最近、アダルトビデオなんかでよく「駅弁ファック」なんて言葉を聞くんで、一体何のことかと最初は耳を疑ったもんだけど、その理由(駅弁を満載したケースを首から下げた駅弁売りの格好が、男が正面から女を抱えるセックスの体位に似ている)を知れば思わずうれしくなってしまう。うまいこと言う奴っているよね。そんな下らない事を考えながら駅弁買うもよし(笑)。

 私はねぇ、あの幕の内駅弁の中に必ず入っている、白身の魚のフライが大好きなんです。一体何の魚かわからないような白身魚のフライ。あれを弁当に添付されているソースをつけて食べるんですが、このソースがお魚のかたちをした小さいプラスティックの入れ物に入ってるんですよ。これもうれしい(笑)。そして、この白身魚のフライを食べる時と言ったら…う〜ん、最高! まさに至福の時だなぁ。本当にうまいものっていうのは、こういうさりげない物なんですよね。

 だから、よくデパートでやっている駅弁フェアなんて催し物もほとんど興味なし。でも、ああいう催し物って大盛況なんですってね。ある日、誰かがたまたまその手の駅弁イベントに行くって言ってたから、もし私好みの幕の内駅弁があったら買って来て…と頼んだことがあるんです。その人にしてみたら、せっかく全国の駅弁が大集合するイベントで、何が悲しくて幕の内買わなきゃならないんだと言いたいところでしょうが、そこは黙ってリクエスト通り幕の内を買ってきてくれました。

 ドキドキしましたねぇ。最近あまり列車の旅ってしてないから、久しぶりの対面。フタを開けるとあったあった、おなじみ白身魚のフライ。いてもたってもたまらずご馳走になりましたよ。

 でもねぇ…何かが違うんですよ。待ちに待った要望通りの駅弁。でも、それを自分の職場で食べても、うまくも何ともないの。ゴハンも冷えててノドにつかえるし。何で?

 やっぱり駅弁は屋内で食べるものじゃないんですね。私たちは駅弁を食べる時、きっと列車の旅情も一緒に食べているんですよ。

 

 

 

 

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